murono尋常生学校 -あたらしい寄り合い-
インターチェンジ直近の山腹にひっそり存在する室野集落。 人口は減少し空き家も目立ってきたが、富士も駿河湾も一望できる絶景あり、桜並木あり、 みかんやキウイや栗も採れ、温暖で味わい深い散歩路が広がるいいところ。
地域にアート作品がやってきて沢山の来場者に恵まれるという芸術祭のストーリーが一段落したように思える現在、 地域住民のみなさんがゆっくり時間をかけて作家や専門家と関われる”学校”的な空間をつくりたい。 ゲストが一方的に上から教示するのではなく、ゲストも”地域の先生”である住民の皆さんからロコの知恵、 たべもの、渋い開催場所を享受して、双方の文化の厚みに貢献できることを目標とする。 大開発をゴールとせず、ちょうど良さを長く続ける。 関係人口が少なくても、中期的な関係性を探ることにより、 行政と専門家と地域住民による新しい文化イベントの座組になればと思う。(企画:澤隆志)
第一回
一字書
華雪(書家)
2023年6月10日(土曜日)6月11日(日曜日) 谷津倉功邸
あなたの居場所を漢字一文字で書いてください。
それについておしえてください。
ワークショップという〈遊び場〉
滞在制作で知らない土地へ入るとき、ほとんど何も下調べせずに出かけることが多い。
知らない土地で、人と出会う。その出会いを通じて、よそ者のわたしは、その土地を知ってゆく。出会いは偶然のようでいて、必然のように感じる。
旧知のキュレーター澤隆志さんに一泊二日で富士市のごく小さな集落・室野に滞在しませんかと誘っていただいた。一泊二日で室野に滞在し、地域の方と作家や専門家が平らな関わりで学び合う「学校」的な空間、〈あたらしい寄り合い〉のかたちを考えたいと伺う。
わたしには字を書くワークショップを通じて、この時間を体験してほしいとのことだった。
集落には、あらかじめワークショップの案内を、こんなふうに回覧板で連絡すると知らされた。(上記)
一日目は、お昼過ぎに滞在先でもある谷津倉功さん宅に到着する。
居間で、谷津倉功さん典子ご夫妻、典子さんのお姉さん、ご夫妻のご友人、そして今回の場作りを澤さんと企画されたご親戚でもある谷津倉龍三さんとでお茶を飲みながら、なんとなく雑談がはじまる。
この地域で生まれ育った功さんと龍三さんは子どもの頃から顔なじみで、話の折々で彼らの子どものころの室野の様子が差し挟まれる。話はどこにたどり着くわけでもなく、色々な話題が浮かんでは消え、また浮かんでは消えてゆく。
気がつけば、日暮れの時間になり、字を書くのは明日でいいかと、功さんと典子さんが用意してくださった夕食をいただく。そして、夕食の後も、功さんと典子さんと澤さんとの4人でとりとめもなく話し続ける。
この時間はいったい何だろう。知らない土地で、初めて出会った方たちの食卓で、まるで家族のようなくつろいだ時間が過ぎてゆく。
夜になって、雨が降り出す。
闇夜に、富士山の山影が見える。
翌日は近くに暮らされている娘さんの手作りのパンを朝ご飯にいただきながら、功さんと典子さんからまたいろいろな話を伺う。話しているうちに、ひとりまたひとりと集落の方が訪ねてこられて、総勢10名ほどの方が集まられた。
玄関脇の広い座敷をお借りし、自己紹介をした後、回覧板の案内通り、あなたの居場所を漢字一文字で書いてみましょうと話す。
今日はきれいな字を書くことが目的ではなく、あなたの居場所のイメージを字に表したいこと、そのためには書体も選んでほしい、象形文字を書いてみてもいいと伝えると明らかに戸惑いの表情を浮かべる方もいて、まずはきっかけとして地名の「室」と「野」の漢字の成り立ちをお話ししてみることにする。
「室」の字は、屋根をあらわす「うかんむり」に矢が地面に至った様子を描く。そして「野」の字は、林の中に土地の神をまつる場がある景色を描いた象形が元になってできたと字典にはある。
字典の解説を読み上げながら、昨日、新幹線の新富士駅から室野へ車で向かう途中、大きな川を渡り、上り坂を経て、蛇行する道をしばらく行くと、急にすとんと何かに入り込むような感覚があったことを思い出した。不思議に思っていると、そこが室野集落だと知らされたのだった。昨日感じた身体の感覚が、「室」の字にも、「野」の字にも通じるようで、おもしろく思ったことも合わせてお話ししてみる。
それまで強ばった表情をされていた方たちの雰囲気も少しずつ和らいでこられたように思えてきたところで、実際に字を書いてみましょうと促してみる。
持参したさまざまな種類の筆は、草を束ねたような少し書きづらい筆もあえて取り混ぜた。そんな筆から気になるものを選び、みなさんがすこしずつ字を書きはじめられる。「室」や「野」を書かれる方、自分の名前を書かれる方、そして居場所をイメージした字を探して書かれる方……ひとりひとりの居場所が字になって現れてくる。
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ワークショップということばを盛んに耳にするようになったのはいつ頃からだろう。
英語のworkshopには、人々のグループが特定の主題やプロジェクトに関して集中的な議論や活動に従事するミーティングという意味がある。この意味を改めて読むと、ワークショップが生み出すものは、そこに集まった人々全員が互いの思考に目を向け合う時間ではないかと思う。そして、そこには「正解」も「お手本」も「批判」もない。「先生」もいなければ、「生徒」もいない。
日本でワークショップと呼ばれるものの中には成果物を重視するものも少なくないのだと、学芸員の知人が残念そうに語られるのを以前聞いて、そのことがずっと忘れられずにいる。
かつてソウルで、小学校の国語教師の方たちとワークショップを行う機会があった。このとき、ひとりの方が、これはまるで幼い頃の遊び場のようですね、とおっしゃった。遊び場ということばが指し示す余白のある伸びやかな時間は、まさにワークショップの時間を言い得ていると感じ入った。
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ひとしきり字を書き終えられた後、それぞれの居場所を、どんな字に書かれたのかとひとりずつに尋ねた。なんとなく書いたと言う方もいれば、これまで誰かに話したことのなかった思いを語る方もおられ、ひとしきり話を聞いたところでワークショップを締めくくった。
終わりと聞いて、さっと帰って行かれる方、残って、功さんと典子さんと話をされている方……その様子を眺めながら、谷津倉家での一泊二日の時間を思い返していると、かつてソウルで聞いた「遊び場」ということばがふと頭に浮かんでいた。
華雪(かせつ)
1975年、京都府生まれ。書家。 幼い頃に漢文学者・白川静の漢字字典に触れたことで漢字のなりたちや意味に興味を持ち、 文字の成り立ちを綿密にリサーチし、現代の事象との交錯を漢字一文字として表現する作品 づくりに取り組むほか、文字を使った表現の可能性を探ることを主題に、国内外でワーク ショップを開催。
うかんむりからはじめよう
澤隆志
「地域起こし」がブーム化して久しい。
少々飽和気味な昨今、親しい作家と意見が一致したのは「作家がアート作品で地域を起こすんじゃなくて、実際は作家が起こされてるんだよね」と。味わい深い物件、名物キャラ、未踏の路、飯、湯、酒etc…
作家は発見したり驚いたりするプロなので、彼らの興奮の反射として、地域の方々が関心を向け始めるというのが実際なのではなかろうか。
というわけで私が常陸太田市や三島市などで試みたのは「地域に作品展示して終わり」ではなく「地域の方々と作家がある程度長い時間交流して、体験をテクストで遺す」というトライ。今回の「MURONO尋常生学校」もその流れである。違うのは、滞在時間が1泊2日であること。滞在先とトークやワークショップの会場を同じくし、地域のお宅にご厄介になることである。打ち合わせのときに盛り上がりすぎたり、打ち上げになって話題を思い出したり、はよくあることで(自分は)。同時に、地域の方々にも”本番感”のないリラックスした状態で対話を続けたい故のアイディアであった。一方が話し手、もう一方が聞き手で固定化することがないように、地域の美味しいものをいただきながら、ちょっと尖った寄り合いのような空間を目指した。
なぜ、室野か。今回の仕掛け人である谷津倉龍三さんにとってルーツの地であり、自身芸術祭を企画している身として注目の地だったそう。現地受け入れ先は谷津倉功さん。親分肌で好奇心が強く、結果の見えないトライにも快く自宅を開放していただいた。そして、芯と委ねを併せ持ち、滞在制作のベテランでもある書家の華雪さんに室野を体験していただいた。ゴールの見えない試みの初回に相応しい作家と考えた。
2023年6月10日、功さん典子さん宅で子供時代の話、ご近所付き合いの話、作物のおすそ分けに関するよもやま話など夜遅くまで話していただいた。あくる11日、その同じお宅で、地域のみなさんと華雪さんとによる一文字の漢字を書き、想い、話す会が始まった。正しさや美しさを問わない「書」に最初はなかなか踏み出せないみなさん。筆を動かしているうちに少しづつ言葉が発せられていく。美に固執する方もいる。遠慮が先に立ってしまう方もいる。思わず感情が湧き出る方もいる。地名である「室」や「野」に祈りの意匠があったことを知る。毎日の道具である文字に面と向かう昼下がり。
小雨が降り出してきたので、さっとお片付けを済ませ、みなさんと共にそれぞれの宀(家?宅?宿?室?宙?)に帰っていく… 功さん典子さん本当にお世話になりました!
第二回
お灸のドミソ
澤辺由記子
(鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師・グラフィックデザイナー)
2023年9月16日(土曜日)9月17日(日曜日) 場所:室野公会堂
ツボは組み合わせると、和音のようにいいハーモニーが身体に響きます。どんな時でもみんなの体調を整えるのを助けてくれる「とっておきのドミソのツボ」と自宅で出来るお灸のやり方を教えます。それに加えて、当日お困りの症状に合わせたツボに国家資格を持つ鍼灸師の先生がお灸をします。みんなで一緒に夏の盛りを健やかに乗り切りましょう。
お灸で「病を市に出す」
「病を市に出す」この聞きなれない言葉は、徳島県の海部町(現在は海陽町)の自殺最希少地域、 つまり日本で最も自殺率が低い地域の人々の生き抜く知恵である。問題が大きくなる前に、野菜を市場に並べるように人目に付くようにして、複数人で対話をすることで解決への糸口を見出すことを指す コミュニティの素晴らしい教えである。しかし、他の地域で応用することは易からぬことであろうと想像する。
今回、私が訪れた静岡県の室野地区は過疎と高齢化が進む人口75人30世帯の山間の小さな集落である。「アーツカウンシルしずおか」の助成を受けて「MURONO尋常生学校」と銘打ち、アーティストが地域の人と交流を図ることで生まれてくる「何か」を求めて連続した取り組みが行われている。まるで、研究室で新しい薬品を試すように過疎地では遭遇し得ないであろう作家たちが招聘された時の化学反応を詳らかにするのである。室野地区×お灸でいったいどのようなことが起こるのであろう。私なりの仮説を立てて臨んだ。それはお灸を施すことで地域の人々の「病を市に出す」ことを手助けすることは可能なのかという問いであった。
お灸のワークショップは室野地区の男女8名の方が参加してくれた。主訴を記入してもらったカルテをベースに問診をしながら施灸をしていると、書き切れなかった思いや、不意に思い出したことをぽつりぽつりと話はじめる参加者が現れた。具合が悪いのに医者に掛かっても病であるとは認めてもらえず、長く苦しく辛い時を過ごしていたが精神を安定させる漢方薬で随分楽になってきたと話してくれた参加者もいた。実はあるツボに鍼灸をすることでこの漢方薬と同様の効果を得ることが出来る。このような密度の対話が生まれたことは嬉しい驚きであった。
個室ではなく公会堂に車座になって私の問診に答えるという体裁を取って参加者全員が自身の身体の痛みやプライベートなエピソードや雑談を共有したことがとても意義深いことであったと振り返る。自分の弱みや困りごとを外に出すことは練習が必要なのである。「病を市に出す」メディウムとして、鍼灸の問診から施術の一連の流れが有用であるかもしれないという可能性を感じるセッションであった。もちろん単回で結果を得られるものではないが、地域の新しい寄合の在り方を示唆してくれた。
最後にお灸で人々の「病を市に出す」ことに成功した初めての人物を紹介してむすびとしたい。それは中国より灸を持ち帰った弘法大師・空海である。人々の困りごとに寄り添い仏教を布教する傍ら灸を施し「灸は身を焼くものにあらず、心に明かりを灯すものなり」と説いた。今も昔も肌の上で艾を燃やすことへの怖れは同じであろう。そしてこの言葉は灸治療の本質を捉えている。一般的に鍼灸は痛みの生じた整形外科疾患を診ると思われているが、服薬なく身体への物理療法で心の病を診ることが出来る数少ない方法の一つであることは、もっと広く知られるべきである。そのような温かな灸を室野地区の皆さんに体験してもらう機会を下さった本企画の谷津倉龍三さんと澤隆志さん、そして行政の皆様に感謝申し上げたい。
参考「生き心地の良い町 この自殺率の低さには理由がある」/岡檀/講談社/2013
澤辺由記子(さわべ・ゆきこ)
鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師・グラフィックデザイナー。凸版印刷・印刷博物館にて活版印刷のアーカイブに従事。グラフィックデザインの仕事を経て、POLA ART FOUNDATION 若手芸術家在外研修員としてスイスに滞在。現在は東京都立産業技術大学院大学・産業技術研究科修士課程在学中。ヘルスケア×デザインの実践と実際について臨床を通して考察している。
問診というメディア
澤隆志
「残酷暑」という言葉を聞くくらい今年の猛暑はお盆を過ぎてもなお厳しい。そして皆疲れている。そんな折なので第二回はケアにまつわる会にしようと思った。ゲストは、デザイナーでアーティストで医療従事者でもある澤辺由記子さん。鍼灸の国家資格を持つ彼女にお灸を用いて対話をする会をしていただいた。会場は、集落の中にある築100年ともいわれる公会堂。
医療や福祉の現場におけるデザインの必要性(ファンシーは満腹、オシャレが足りない)や、東洋医学の効能をスピリチュアリティやアカデミズムに偏りすぎずに説明する工夫について澤辺さんと時おり話している。鍼灸の存在は知っていて、ときどき施術を受ける方がいても、その膨大な知識と効果をイベントの数時間で会得することは不可能だ。
そこで今回、お灸について
1)部位を限定(肌を出しやすく施術もしやすい)
2)効能を仕分け(ベーシックとアレンジ)
3)ツボを絞る(3つ)
提案いただいた。限られた時間に必要十分かつ反復できそうなボリュームに落とし込む。これこそがデザインの力ということだろう。
気、血、水という3つの基礎要素を、足先、膝下、手というセルフケアしやすい場所にお灸を置く。その効能は誰もがいつでも習慣化するとよいベーシックなものなのだそうだ。澤辺さんが一人ずつ場所を教え、皆で艾の香りに包まれて残暑のひとときを過ごす。その後、参加者それぞれのフィジカル/メンタルの悩みを聞いて基本形以外のツボにも置いていく。
レクチャーのQ&Aや面談などで気軽に心身の「痛み」を表現するのはなかなか難しい。ここでは、お灸という身体へのコンタクトを通じて、また問診という慣れ親しんだコミュニケーションを通じて悩みや痛みを皆と共有するという温かい会になった。
第三回
みんなで楽しく花をいける
上野雄次(華道家、アーティスト)
2023年9月30日(土曜日)10月1日(日曜日) 場所:室野公会堂
経験がある方も
そうで無い方も
スタイルにこだわらず自由に花を生け楽しむ会です。
年齢や性別も関係ありません
小さいお子様からシルバー世代の方まで
お待ちしております。
お庭や道端に咲いているお花などあれば
お持ち頂けたらと嬉しいです。
上野さんのinstagramを模して10/1の花いけの成果を再現しました
https://www.instagram.com/uenoatmurono/
上野雄次 (うえの・ゆうじ)
花道家/アーティスト。1967年京都府生まれ、鹿児島県出身。東京都在住。1988年勅使河原宏の前衛的な「いけばな」作品に出会い華道を学び始める。国内展覧会での作品発表の他、バリ島、火災跡地など野外での創作活動、イベントの美術なども手掛ける。地脈を読み取りモノと花材を選び抜いて活けることで独自な「はないけ」の世界を築き続けている。創造と破壊を繰り返すその予測不可能な展開は、各分野から熱烈な支持を得ている。
お華はインスタ
澤隆志
以前担当していた大学では受講生が数百人いて、課題提出とその採点に膨大な時間がかかるため、初年度から課題をインスタグラムにした。静止画あるいは動画投稿に、しかるべきキャプションを加えるべし。僕の”いいね!”が評価A。
美術館の解説文か本屋さんレコード屋さんのポップ等、専門家がやっていた楽しい作業を、今日皆が世界中で大量生産している。写真を撮り、盛り、相応しいタグを付け、ベストなタイミングでポストして、リプライにご満悦…
京都の知人の邸宅でお会いした上野雄次さん、華道家でありつつアーティストとして”道”からはみ出た活動もされている。そのときは重力による制約とそれがある故の創造性についてお話を伺ったのだが、今回ゲストにお呼びしてその創造性を少し理解できた気がした。上野さん自身が朝から念入りに室野で採集したお花や草や枝、参加の皆さんのご自宅に生えているお花も交え、さぁ花いけをやってみよう!と。
*西洋の花束は全方位から見るべく配置されるが、日本の花いけは床の間に置かれるので”正面”がある
*切ってきたお花を、もともと生きていた姿に戻してあげる(葉の裏表、枝のカーブなど)
*お花、花器、花留めなど全体のバランスを考える
など、上野さんによる「お華」の感覚を少しずつ吸収し、自生の姿とはちょっと異なる”手作り自然”のような状態が生まれていく。サッと考えて、サッと組み合わせ、ちょっと整える。サンプリングに興じるhiphopのDJや、前にあるソースコードをいじって新しいプログラムをひねり出すハッカーのセンスによく似てると感じた。かと思えば、かよわい草花を活けながら「哀感から出てくるやさしさ」といったThe、和な感性をポロッと口にされるのが非常に印象的だった。
正面があって、光の入り方や構図に敏感なセンス。これはまさに写真の世界であり、日々インスタグラムで楽しく腕を磨いている若者に広まればお華の世界も更新されるかもしれない。また、インスタグラムという手軽な画像シェアを用いて、花いけが日常の行為となっていけば楽しいだろうなと思った。10月はじめの室野は花盛りであった。
第四回
立体物をつくる3Dプリンター体験
林園子 (作業療法士、ファブラボ品川 ディレクター)
2023年11月18日(土曜日)11月19日(日曜日) 場所:室野公会堂
自由に絵などをかいて、それを立体にします
名前の表札などでも大丈夫です
歓喜の一瞬を
3Dプリント体験会を土日の昼下がり、3時間程度連日公会堂をお借りして実施しました。
毎日晴天に恵まれ、素敵な木造の公会堂までの道中は、綺麗な富士山を眺めながら、初冬のキリッとした空気の中、楽しみました。
この試みは私にとって初めてのことが多く、とてもワクワクしながらプロジェクトが進みました。 一つは、会場。 公会堂で実施するのは初めてです。 もう一つは告知方法。 なんと回覧板で参加者を募集するとのこと。 もう一つは3Dプリンタの運搬。 組み立て済みの箱型ではないFDM3D プリンタを、トランクに入れて中距離移動を一人で行うのは初めての試みでした。
それまで、都内は運んだことがあったのですが、何せ大きなトランクなので階段を利用することは困難です。そして、意外とここで、東京の公共交通機関はバリアがあることを改めて自覚することになります。今回は、都内から静岡県富士市まで新幹線に乗せる初めての試みです。
まず、初日の朝からトラブル。最寄駅の浅草線が止まっているとの情報。慌ててタクシーで最寄りのJ R駅まで行くプランに切り替えます。大型荷物置き場付きの新幹線の席予約は、行きも帰りもギリギリセーフでした。品川駅まで行き新幹線に何とか乗車。初めての大型荷物置き場への収納にトライ。置き場の鍵が、インストラクションの通りに数字を入れ込んでもなかなか開かず、近くにいた外国人の男性に助けてもらいました。
持参した3Dプリンターは、Prusa mini。これは、私たちがその時知っている3Dプリンタの中で、最も大きさが小さくかつ精度が良いものだからです。通常ワークショップで3Dプリンタ1台しか持参しない、というのはありえません。なぜなら、その1台が運搬中に何かあって、当日動かなかったらアウトだから、いつも複数台で挑みます。でも、きっとこのPrusa miniなら、頑張ってくれると当日も信じて臨みました。 新富士駅からは、澤さんと谷津倉さんと合流でき、安心して会場に向かうことができました。
初日は3Dプリンタってどんな仕組みで、とにかくどんなものがどうやってできるのか、なるべくいらして下さった皆さんにわかりやすくお伝えできればと思い臨みました。硬いプラスチックみたいな材料から、少し柔軟性のある樹脂まで色々使えることを実際のサンプルを使ってお見せしました。すると、「だったら名前入りのキーホルダーが欲しい!」「だったら、新しく買ったカメラレンズに合うレンズキャップつくれない?」参加者の方々からいろんなリクエストやニードが出てきました。それに合わせて一緒に3Dモデリング、そして3Dプリント。。。時間は限られているので、1回きりの挑戦です。果たしてピッタリ合う作品ができるか。。じっとみんなで目を凝らして3Dプリントを眺めます。プリンタもきっと緊張していたと思います。そして、見事上手く出来上がった時、「やった!」とその場にいた全員で歓喜!
そう。この瞬間のためにみんな3Dプリンタを使っているんじゃないかと思います。
私たちは障害のある方と一緒にチームでその方の暮らしをよりよくする道具をつくる、「メイカソン」というイベントを何度か開催しています。そこでも、出来上がって上手く行った時のチーム内での歓喜のざわつきを、これまで何度も体験してきました。
富士市の公民館でもこのイベントのあと、「公民館に3Dプリンタ入れるかー?」という議論が参加者から上がっていました。是非、具体化したらまた地域の仲間同士で歓喜の一瞬を味わい続けていただけると嬉しいなと思います。
この度は貴重な経験をさせていただき有難うございました!
また会いましょうー。
林園子 (はやし・そのこ)
作業療法士として、20年以上臨床に携わる傍、2018年1月に一般社団法人ICTリハビリテーション研究会を設立。同年4月にファブラボ品川ディレクターに就任。3Dプリンタなどのデジタル工作機械を介護やリハビリテーションの現場で活用するためのワークショップを展開している。慶應義塾大学政策・メディア研究科後期博士課程終了。2019年8月「はじめてでも簡単!3Dプリンタで自助具をつくろう(三輪書店)」
萎縮する間を与えない
澤隆志
年齢に関わらず、あたらしいことや他ジャンル、異文化にすっと腰を上げられるか。変化の多い現代に求められる感覚といえるだろう。しかし、年齢や経験値で教える/教えられるが一方通行になると受け手が萎縮してしまうことが多いものである。
今回は作業療法士の林園子さんを招いて3D プリンターに触れてみる、という体験。僕が林さんとあったときは「3Dプリンターで自助具をつくる」というイベントであったので、今回も同様の企画でいければと思っていた。が、林さんと対話しているうちに、参加者を高齢でなにか身体的に困っていると決めつけるのはいかがなものかと。もっとカジュアルに3Dプリンターで簡単なものを作ってみよう的なことでよいのでは?と指摘をうけた。確かに! 知らず知らずのうちに参加者の属性やニーズを決めてかかっていました。反省。
当日は3時間x2日のセッション。冬になってようやく富士山も一日中くっきり見えて感動。集まっていただいた皆さんが今様のテクノロジーに萎縮しないといいなぁと思っていたが杞憂に終わった。ある方はネームプレートを、ある方はブックマークを、ある方はレンズキャップを。と、積極的に要望していただいて安堵した。林さんも手慣れたもので、制作物のカタログのようなデータ集を持参されていて、先の要望に近しいデータを読み込み、大きさや名前を変えて出力。デジタルならではの可塑性、応用性をサクっと披露されていた。今後、出力の時間がもっと短くなって、楽器のようにトライ&エラーが即時にできるようになったら、プロダクトを介した対話というものが盛り上がりそうに思った。パッと思いついてすぐトライ、駄目でも気にせず「はい次!」みたいなノリはデジタル機器が得意とするものである。冒頭に述べたような萎縮を覚える暇もないくらいポンポン発想し、たくさん失敗することの良さ。を一時体験していただけたのではないだろうか。
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